(社説)消えた留学生 社会のゆがみ映し出す

社説

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 東京福祉大で過去3年間に1600人もの留学生が所在不明になっていることがわかった。

 文部科学省と出入国在留管理庁は大学側の管理責任を問い、定員のしばりを受けない、いわば抜け穴として利用されてきた「学部研究生」枠での入学・在留を当面認めないことにした。当然の措置である。

 この大学の留学生は5年間で15倍に膨らみ、全国で2番目に多い約5千人に及ぶ。その8割が、問題の学部研究生など正規課程以外の学生だった。

 大学側は「行き場のない留学生を救済した」と釈明する。だが、人数に見合う事務職員がいない、教室の設備が整っていないなど、まともな学習環境が用意されていない実態をみれば、およそ説得力を欠く。執行部の責任は厳しく問われるべきだ。

 多くの留学生をかき集めている大学や専門学校は、他にもあるとされる。日本で働きたい若者に入学金などを納めさせ、見返りに在留の方便を与える。そんな「留学生ビジネス」の存在は国会でも追及されてきた。

 私大の3分の1が定員割れしている現実が、その素地にあるとも言われる。文科省も3月末、学生数確保のための安易な留学生受け入れを警告する通知を全国に出している。

 経営難の穴埋めに海外の若者を利用し、フォローしないまま放り出すなど、許される話ではない。外国から受け入れた若者に対して無責任なうえ、日本の大学の国際的信頼を著しく傷つける。東京福祉大にとどまらず、全体像の徹底した解明が必要だ。

 それにしても、異常な実態がなぜ見逃されてきたのか。会見した柴山昌彦文科相は把握の遅れを認め、「性善説をとっていた部分がある」と述べた。

 政府は08年に「日本を世界に開かれた国にする」として、20年までに国内の外国人留学生を30万人に増やす計画を打ち出した。目標の達成を優先するあまり、大学へのチェックが甘くなった面はなかったか。

 第三者の立場で大学を評価する機関の審査のあり方もふくめ、勉学環境の点検の強化が急がれる。

 いま日本では「留学生」の在留資格で30万人が働く。コンビニや飲食店など多くの産業が、そうした若者らの低賃金労働に支えられている。政府は昨年、出入国管理法を見直して外国人労働者の受け入れに転じた。だが、日本語教育を始めとする支援策は後回しにされた。

 消えた留学生問題は、外国人を「人」ではなく「労働力」としてしか扱わない社会のゆがみを映し出し、この国のあり方に反省と改善を迫っている。

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