(社説)無電柱化 推進法が泣いている

社説

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 梅雨に続き台風シーズンがやってくる。昨年は7~9月に5個が上陸し、大きな被害をもたらした。街の弱点に目を向け、改善する際に忘れてはならない一つに電柱の存在がある。

 昨年の台風21号では近畿や中国、北海道などで約1800本の電柱が倒壊・破損し、道をふさぎ、車や建物を壊した。配電線も寸断され、最大で約260万戸が停電した。

 電柱は風速40メートルに耐えられるように設計されているが、21号の最大風速は45メートルを超えた。25メートル程度でも電線に物が引っかかれば、より強い力がかかって危険度は高まる。

 政府は昨年末にインフラの緊急点検をし、災害時の緊急輸送道路のべ約1千キロにある電柱の撤去を決めた。しかし電力会社との調整が必要なうえ、全国の約1700の市区町村の8割は電線地中化の経験がないという。ノウハウの伝達・共有を急がなければならない。

 驚くのは、16年に無電柱化推進法が成立し、電力会社や自治体の責務が定められたのに、その後も年7万本のペースで電柱が増え続けていることだ。ザル法との批判は免れない。

 緊急点検の結果とは別に、推進法に基づき国道など1400キロを無電柱化する計画もある。合わせた2400キロ分の工事を来年度までに始めるというが、そこに何本の電柱があるのかも正確には把握されていない。国の本気度が疑われる話だ。

 まずは法の趣旨にのっとり、新設を抑制するよう電力・通信会社に強く働きかける。そのうえで、災害時の避難路や電柱が倒壊したら通行の大きな障害になる場所を選び出し、撤去する対象を具体的に特定して計画的に進めてもらいたい。

 国土交通省が設けた有識者会議では、そのための費用の負担問題も取りあげられた。

 3月の会議では委員から、電力・通信会社の経営への影響を考えて、10年間の猶予期間を与えて撤去を要請し、それでも実施されなければ11年目以降は電柱の占用許可を与えない――などの案が示された。撤去と地中化には約7年の工期がかかるとされており、現実的な提案といえるのではないか。

 事業者が納得し、協力できる工夫を盛り込むことが、工事を着実に進めるうえで不可欠だ。住民も、いまは電柱の上にあるトランス(変圧器)の置き場所を押しつけ合うなどせず、全体の利益を考える必要がある。

 無電柱化率は東京23区でも約8%にとどまり、100%のパリやロンドンに遠く及ばない。倒壊時の危険性を社会全体で認識しよう。災害大国として、避けて通れない課題である。

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