(社説)地域おこし 多様な生き方で協力を

社説

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 全国を巡ると、「地域おこし協力隊」に出会う機会が増えた。それもそのはずである。10年前に89人で始まった制度が、18年度には1千自治体で5千人を超えているのだ。

 都市部などから隊員が移住し、地元の人々とともに地域を元気づける活動が、各地で成果をあげている。隊員の約7割が20~30歳代で、全体の4割を女性が占める。今後のいっそうの拡充を期待する。

 制度は総務省過疎地などの人口減少を食い止めるためにつくった。住民票を移し、農林水産業や住民の日々の生活支援、地場産品の開発・製造・販売など、さまざまな活動をしながら地域への定住、定着を図る。

 隊員は自治体と雇用契約を結ぶ。採用した自治体には、国の特別交付税の中から、1人年間上限400万円が出る。期間はおおむね1年以上3年以下。ただ、特別交付税は災害対応優先なので、災害が多い年には行き渡らない場合もある。

 それでも隊員が増えてきたのは、各地の評判がいいからだろう。特産の干し柿でスイーツを開発(広島県安芸太田町)、耕作放棄地で再生イベント(岡山県美作〈みまさか〉市)、空き家のシェアハウス化(長野県飯島町)など、注目された活動は数多い。

 総務省の17年度調査によると、任期終了後、ほぼ半数が赴任先の市町村に定住。そのうち3割が起業し、6割が就業・就農している。

 起業の内容はパン屋、古民家カフェ、農家民宿、山菜の通信販売、webデザイナー、ツアー案内など多岐にわたる。

 就職先は旅行業、農業法人、医療福祉関係などが多く、町村議員になった人もいる。

 政府の地方創生が掲げる「東京一極集中の是正」が進まない現状では、協力隊の奮闘は、わずかな前進かもしれない。

 だが、隊員と住民が成功体験を共有できた地域には、確実に活気がもたらされている。隊員の多様な働き方が、地域に対する新たな応援方法を創出している点も評価できる。

 報酬の多寡よりも、生きがいを重視する隊員の仕事ぶりは、世の中の価値観の幅を広げ、人々が暮らしを見つめ直す契機にもなりうる。

 今後は定年退職後に隊員になる人も増えるかもしれない。

 もちろん課題は多い。まずは受け入れ自治体に、いっそう丁寧な採用活動が求められる。単なる人手不足の穴埋め感覚ではうまくゆくまい。

 県ももっと積極的に関与したらどうか。起業家研修やOB、OGのネットワークづくりは、市町村よりも広範囲を担う県が手がける方が効果的だ。

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