アイルランド出身の詩人、ピーター・J・マクミランさんがやまとうたを英語で生まれ変わらせながら、日本人の世界観の深層に分け入るコラム「星の林に 詩歌翻遊」。2019年から始まった連載が最終回を迎えます。連載終了にあたり、デジタル版の特別寄稿を配信します。
花吹雪 たもとに受けて はらからと
遊びしむかし なつかしきかな
I recall fondly those days
when playing with my sisters
we caught the cherry blossoms
in our kimono sleeves that scattered
as if in a snowstorm
【現代語訳】〈桜の花が吹雪のように舞うのを、夢中で着物の袂(たもと)に受けて、姉妹で遊んだ昔の懐かしいこと〉
花の袂という歌ことばがある。平安時代の昔から、春のはなやかな衣装を称した。この少女たちの着物もそれだろう。はらはらと散りかかる花びらが、文字どおり花を添える。ひるがえす袖の軽やかな動き、笑いさざめく音。昔に変わらない桜が、作者を懐かしい世界へと誘い出す。
この歌の作者大谷智子(さとこ)は、東本願寺第二十四世法主大谷光暢の裏方。久邇宮邦彦王の第三王女で、昭和天皇の皇后である香淳皇后は長姉。次姉の信子女王(三条西信子)を含めた三姉妹は仲が良かったらしい。幼い日の「はらから」との思い出は、作者にとって、かけがえのないものであったようだ。
実は私の自宅の近くに、大谷智…