大会前にあった甲子園練習で珍しい光景を見た。愛工大名電(愛知)が投球の回転数や変化量などを計測できる弾道測定器「ラプソード」を使っていた。

 米大リーグやプロ野球では当たり前のように使われ、高校野球界でも少しずつ浸透しているが、甲子園練習に持参したチームは見たことがなかった。

 「練習では常に計測をしている。(甲子園でも)普段通りの数値が出るかな、と。すごく興味深いことだった」と倉野光生監督。

 愛工大名電がこの機器を導入したのは2年前。OBの田村俊介(現広島)がドラフトで指名を受けた際、寄贈してくれた。

 倉野監督は「以前からそういった分析機器があることは知っていたが、なかなか一歩踏み出せなかった」。だが、初めてデータで見る世界に衝撃を受けた。なぜ変化球が曲がらないのか、なぜ制球が定まらないのか。原因がすべて数値で導き出された。

 「指導方法は大きく変わりました。私の考えがいかにおろそかであったか。現実と、我々の経験との違いがよくわかった」

 22日、報徳学園(兵庫)との1回戦で完投した伊東尚輝(3年)はラプソードの数値を見ながら、直球を投げたつもりがシュートしてしまう点を修正したという。

 野球界でも、科学の進歩による技術革新は進んでいる。倉野監督は65歳。2005年の選抜優勝を含め、春夏合わせて17回、甲子園に出場している。それでも、常に自らの経験や感覚を疑い続ける。

 「グーグルマップで目的地に行く時代ですよ。いつまでも地図帳を開いていちゃだめ」

 昨夏の全国選手権で4強入りし、今大会でも22日の1回戦を突破した神村学園(鹿児島)の小田大介監督(41)も似た考えだ。

 野球経験のない動作解析の専門家の意見を練習に生かしている。

 「野球の素人だからこそ、(チームの指導者とは違った)角度のある意見が出てくる。『自分が現役時代にこうだったから』と、人の意見や考えを聞かないのは違う」

 指導者のアップデートし続ける姿勢が、選手の成長にもつながる。(室田賢