長野県諏訪市の精密板金加工会社「エイワ機工」がステンレス製のたき火台を売り出し、こだわりの機能がソロキャンプ愛好家の間で評判になっている。だが、社長の三浦正広さん(48)はこう言い切る。「アウトドア商品をバンバンつくるつもりでやっているわけではない」

 1979年創業の同社は、電源や電子機器の外装ボックスを主要製品としてきた。厚さ1~2ミリの金属板を折り曲げたり、穴を打ち抜いたりといった加工を得意とする職人集団だ。

 長年磨いた技術を生かし、たき火台を開発したのは3年前。社員の一人でレーザー加工機のプログラマーだった藤森宗一郎さん(36)が、仕事の休憩時間に試作を始めたことがきっかけだった。

 オートバイで出かけるのが好きで、公園で休憩するときは、小さなコンロでお湯を沸かしてコーヒーを飲んでいた。「自分だけのオリジナルの道具をつくって、1人でバーベキューをしたら楽しいだろうな」

 そんな思いで煙の出方などの実験を重ねた。穴の数など改良に励む姿を目にした当時工場長の三浦さんが「どうせなら商品として世に送り出せる物を」と声をかけると、本人の「ものづくり魂」に火がついた。

 最初に商品として完成したのは、A4サイズのパネル5枚を組み立てると幅約50センチ、高さ約20センチになるたき火台。重さは約1・7キロあるが、たためば縦32センチ、横37センチのトートバッグに入れて持ち運べる。

 同じパネル式の他社製品と異なるのは、パネルの表面に細長いひも状のくぼみを付ける「ビーディング」加工を施し、強度を高めたところだ。10キロの荷重にも耐えられる。「薪は意外と重い。その上にやかんを置いて、お湯を沸かすぐらいのことはできるようにしたかった」

 通風のための細長い出窓状の空気穴をパネルに成形プレスした「ルーバー」加工は、電気設備の排熱口に用いる技術を応用した。薪を燃やしたとき、外から入り込む空気の流れを考えて穴の位置を調整し、燃焼効率を高めた。

 同社がSNSで情報を発信して営業活動を始めたところ、3年間で累計100台ほどのたき火台が売れた。

 レギュラーサイズは同社の通販サイトで税込み1万6500円で受注販売している。たき火台に取り付けられる専用の五徳を追加購入すれば、小さな網や鍋、ホットサンドメーカーを載せて野外料理を楽しめる。

 同社はたき火台の成功を機に、新分野の自社製品ブランド「EiSist(エイシスト)」と開発チーム「エイシスト事業部」を立ち上げた。

 昨秋、長野県岡谷市の商業施設で開かれたイベントには、ハロウィーンの仮装をした社員が新商品のランプシェードを携えて参加。家族連れに宣伝した。

 三浦さんは、こうした取り組みに手応えを感じている。

 「諏訪地域はものづくりが盛んだが、これから人手不足が進めば、面白いことをやっている会社でないと働く人に来てもらえない。キャンプ用品は、チャレンジし続ける会社だということを広く伝える、よい武器になっている」(佐藤仁彦

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 〈エイワ機工〉 社員数約40人。年商約6億円。4年前に諏訪市内の工場に最新鋭のレーザー加工複合機を導入した。福利厚生面では、構内に休憩用のウッドデッキを設けたり、花壇でブドウや野菜を栽培したりして、社員の居心地のよさを追求している。取得目的は問わないサバティカル休暇(リフレッシュのための長期休暇)制度を導入する計画も進めている。

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