記者解説 科学みらい部・嘉幡久敬

 政府は日本学術会議の組織見直しを盛り込んだ法案について、通常国会への提出をいったん見送った。学術会議側の反対や世論の反発に配慮したように見えるが、引き続き見直しは求めている。国の機関のまま高い独立性の維持を求める学術会議側の主張には、歩み寄っていない。学界や経済界の識者らでつくる懇談会を設置して、国から独立した法人とする案も議論する見通しだ。2020年10月に会員候補6人の任命拒否が発覚してから、政府と学術会議側の隔たりは埋まっていない。

 政府や与党が組織の見直しにこだわる背景には、軍事研究をめぐる不満がある。自民党議員らは17年に学術会議が公表した軍事的安全保障研究に関する声明などを挙げ、軍事研究に反対していると訴えてきた。

 防衛省が15年に学術界向けに研究費制度を始めたのをきっかけに、学術会議の検討委員会が議論を始めた。公開討論を経て、1年ほどで声明とそのもとになる報告をまとめた。軍事研究によって「学問の自由」を損なわないよう科学者に慎重な対応を求めている。

 報告では学術会議が1949年に創設され、50年と67年に軍事目的の科学研究をしない趣旨の声明を出していることを紹介。真理の探究を主目的とする学問の自由が政治権力によって制約されたり政府に動員されたりしてきたとして、学術研究の自主・自律性、成果の公開性が担保される必要があるとした。こうした考え方は先進国の学術界では古くから共有されている。

 2017年の声明や報告は、軍事研究について一律に禁止を求める内容ではない。時代の変化にともなって科学者に現実的な対応を促している。

 いまでは軍事利用される技術や知識と、民生利用されるものを明確に区別するのは難しくなっている。両方で使える「デュアルユース」が広がり、研究成果を軍事利用されたくないと思っても科学者が止める手段は少ない。例えば、半導体はミサイルなど多くの兵器に組み込まれている。ウクライナやロシアは民生品のドローンを実際に戦場で使っている。

ポイント
 政府・与党は科学者でつくる日本学術会議の組織見直しを、あきらめていない。安全保障環境が厳しいなか、軍事研究にもっと協力すべきだという考えが背景にある。学問の自由を保つには、社会の理解を得るべく開かれた議論が学術界にも求められる。

 声明や報告では研究そのものは…

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