2013年にプロデビューしてから、こんな大舞台を待ち望んできた。
日本バンタム級2位の与那覇勇気(32)=神戸・真正ジム=は、「極上の相手」との試合で一躍注目される存在になった。
8日、東京・有明アリーナで、「神童」の異名を持つ那須川天心(24)=帝拳ジム=と戦う。キックボクシングなどで47戦全勝を誇った那須川のプロボクシングデビュー戦の相手に指名された。
2月13日、東京都内であった試合発表会見。その直後から周囲が慌ただしくなった。
連日、練習にはテレビカメラがやって来て、与那覇の動きを追った。
「発表された途端に、スマートフォンの通知が止まらなくなりました。取材を受けるのは好きですけど、まだ試合をやると決まっただけ。勝ってこそ、真のスターになれる」
注目されるほど、与那覇には「沖縄の人たちに勇気を与えたい」という思いがこみ上げてきた。
人口約4万人の沖縄県南城市出身。幼少時から空手や柔道に打ち込み、地域の人たちに応援されてきた。大会で結果を出すたびに、近所の掲示板に新聞記事を貼ってもらった。それが何よりもうれしかった。
「小さな町からビッグになると、ずっと昔から思っていて」
「自分の名前は与那覇勇気。(県庁所在地の)那覇に勇気を与えるって書くんですよ」
ボクシングを始めたのは沖縄尚学高入学後。名指導者として知られる金城真吉さん(故人)に導かれ、高校王者にもなった。
高校では体育科。約50人のクラスにはさまざまなスポーツに打ち込む同級生がいた。
いまも現役を続けるのは、プロ野球福岡ソフトバンクホークス投手の東浜巨(なお)、女子ゴルフの小宮満莉花(まりか)との3人だけになった。
3人はいまも連絡を取り合うなど交流があるという。東浜は「試合を楽しみにしている。応援しているので頑張ってほしい」とエールを送った。
与那覇の調整は万全だ。
チーフの岩岡耕平トレーナー(42)に加えて、元世界王者の久保隼トレーナー(32)もセコンドにつくことになった。与那覇と久保トレーナーは東洋大の同期生で、プロでも同門だった。観察眼にすぐれた久保トレーナーと意見交換しながら「天心対策」を練り上げてきた。
久保トレーナーは言い切った。
「やっておかないといけないことは全部やりました」
抜群のスピードを持つ那須川に対し、どんな戦略で臨むのか――。与那覇陣営の出方に注目したい。(伊藤雅哉)