葛生・牧歌舞伎が6年ぶりに復活 県内唯一の「地芝居」

根岸敦生
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 栃木県佐野市の葛生地区の山あいに伝わる地芝居「牧(まぎ)歌舞伎」が6年ぶりに復活した。江戸時代中期から演じられてきたといい、県内では唯一現存している地芝居で、県指定無形民俗文化財に指定されている。

 地芝居はその土地の人が演じる歌舞伎。村芝居や村歌舞伎とも呼ばれる。明治期には県内では約20カ所で伝承されていたという。牧歌舞伎は1961年に中断したものの、76年に記録映画の撮影を機に再開され、81年に保存会ができて今日に至っている。

 通常は2年に1度、上演されてきた。前回公演は2017年。次の19年は台風19号襲来の翌日で地区の秋山川などが氾濫(はんらん)し、土砂崩れも相次ぎ中止になった。21年はコロナ禍で見送られた。

 12日にあった6年ぶりの公演は「弁天娘女男白浪(むすめめおのしらなみ)(白浪五人男、本外題は青砥稿花紅彩画〈あおとぞうしはなのにしきえ〉)」から「浜松屋見世先の場」と「稲瀬川勢揃(せいぞろ)いの場」の2幕。会場の葛生あくとプラザに集まった約500人の観衆からは声援や祝儀が飛び、大盛況だった。

 元々、牧町は旧葛生町の北西部にある。秀林寺不動尊の縁日(旧暦3月28日)などで上演されてきた。

 天保年間に江戸歌舞伎の三代目関三十郎が当地を訪れ、若者組に本格的な歌舞伎を教えたと伝わる。関三十郎は八代目市川団十郎の頃に活躍した。

 鼻が高く「鼻の三十郎」と異名を取った実悪(敵役)が得意の役者だった。「本当に来てくれたかどうかはわからない。でもそういう言い伝えはあるんです」と座長の飯塚豊治さんは話す。

 この日、上演した「白浪五人男」の「浜松屋見世先の場」は、19年にも上演予定だった。保存会17人にとって「リベンジの舞台」と飯塚さん。定員約550人の会場は9割方埋まった。

 呉服の浜松屋の店先で、嫁入り前の娘に扮した弁天小僧が万引きをしたように見せかける。それを見とがめた店に難癖をつけ、金をゆすり取ろうという算段を仕掛けたところ、居合わせた玉島逸当(実は盗賊一味の日本駄右衛門)が見破って追い返すという筋書きだ。

 小娘が素の男の姿に戻るところが見せ場で、飯塚さんは見事に演じ切った。「本番は役者同士でアドリブの連発。場内がすごい。お客さんに後押しされた」

 2幕目の「稲瀬川勢揃いの場」は地元の常盤中1年生の生徒18人が演じた。保存会が後継者を育成しようと1997年から続けている企画で、主役の日本駄右衛門以下、盗賊一味の5人のほか、捕り方や口上の担当もこなした。夏休みから直前まで稽古を続け、舞台に上がった。

 七五調の文句を5人の盗賊が次々に語りあげる「渡りぜりふ」を見事にやり遂げた日本駄右衛門役の佐々木凪渡さんは「これまで稽古してきたすべてが出し切れた」。弁天小僧役の山崎愛瑠さんも「客席の人数がいっぱいで、これまで頑張ってきた価値があった」と話した。

 今春から葛生地区の2中学校と4小学校は統廃合され、常盤中は葛生義務教育学校に変わる。常盤中最後の出演となったこの日、岡本桂馬校長は「新しい学校になっても牧歌舞伎には参加を続けたい」と語った。

 舞台はおひねりや祝儀でいっぱいになった。保存会の高橋功会長は「多くのご支援、協力をいただき、これからも牧歌舞伎を継承、伝承していく」と述べ、手締めでこの日の公演を締めくくった。根岸敦生

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