第7回「老後の沙汰もカネ次第」? 介護保険の将来、上野千鶴子さんの懸念

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A-stories「ケアワーカーがいなくなる?」

 深刻なケアワーカー不足の要因の一つは給与や待遇の改善が進まないこと。その背景にジェンダーの問題がからむことを、認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」理事長の上野千鶴子さんは指摘します。介護保険制度をウォッチしてきた上野さんに聞きました。「在宅ひとり死」ができる制度であり続けるために、介護保険に求められることとは。

「女のただ働きだった」 それが今

 ――介護現場の人手不足の要因の一つに、待遇改善が進まないことがあります。給与などが不十分なままなのはなぜでしょうか。

 介護報酬の設定が仕事に見合わない安さです。ケア労働の値段はなぜ安いのか。元は「女のただ働きだったから」としか思えません。合理的理由ではありませんが、どう考えてもそれしか思い当たりません。

 介護保険制度が始まる前、家の中で女がただ働きで介護をしてきたことを「私的家父長制」と呼びます。制度ができ、介護が対価を伴う労働になっても低賃金であることを「公的家父長制」と言います。それが制度の根幹にあります。

 さらに、介護労働者の多くは非正規雇用です。訪問介護の登録ヘルパーもこれにあたります。非正規雇用は、空き時間を細切れ的に使って働ける「女向き」の仕事としてつくられてきました。その元にあるのが男性稼ぎ主モデルで、家族内で女性は家計補助労働を担うという構造です。

 さまざまなジェンダーの問題がからまりあい、介護労働の低賃金を生んできました。シングルで家計を維持しなければならない女性が増えても、見直されていません。

 キャリアを重ねて平均年齢が上がったことが給与を押し上げている面もあり、在宅、施設の職員とも介護職員の平均賃金は、全産業平均との差が縮小しています。しかし、全産業の労働者の平均給与より低い状況は変わりません。

利用者と事業者の対立が起きる

 ――介護報酬では、職員の給与増額にあてる加算などで事業所に処遇改善を促してきましたが、財源は利用者負担と介護保険料、公費とでまかなう仕組みのため、利用者の自己負担増も伴うことになります。

 処遇改善のために各種の加算…

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