「虐待、防げなかった」 特養で暴行 施設長の後悔と問いかける役割

有料記事

畑山敦子
[PR]

 「入居者の方がおけがをされています。自分でつけた傷ではないと思います。虐待かもしれません」

 9月14日午後、東京都青梅市にある特別養護老人ホーム「あゆみえん」。フロアリーダーの職員は女性入居者(93)のトイレ介助中、ひじ付近にあざがあるのを見つけ、施設長の笛木昭宏さん(60)に報告した。

 別の職員が女性の了解を得て身体を確認すると、ひじのほかに胸部や太もも、みぞおちにも皮下出血がみられた。

けがを訴えない入居者

 「誰にも言わないで。大ごとにしたくないから」。女性は傷の痛みで食事をするのもつらそうだったが、当初は何があったか話そうとしなかった。話を聞くうち、職員に殴られた、と打ち明けた。ただ、誰なのかは明かさなかった。

 「まさか、と最初は思いました」。笛木さんはこう振り返る。

 女性のいるフロアを担当する職員たちに対し、上司が緊急の聞き取り調査をした。だが、誰が殴ったかわからなかった。

 病院で診てもらうと、女性は左肋骨(ろっこつ)の骨が折れ、上腕二頭筋も損傷していることがわかった。

 翌15日、職員の暴行によると思われる入居者のけがとして市に届け出た。上司がもう一度職員に聞き取りをすると、13日に遅番で勤務していた男性職員(23)が殴ったことを認めた。

 「女性にトイレに行きたいとせかされて、イライラして殴りました」。下を向く職員に、上司は自宅待機を命じた。

 16日に警察に通報し、謝罪のため女性の家族のもとを訪れた。警察は殴った男性職員や他の職員などを聴取。男性職員は10月に逮捕され、その後、略式起訴された。

 「ご本人やご家族、さらに多くの方にご迷惑をおかけしてしまった。本当に申し訳なく思っている」

 笛木さんは入居者や家族、市や警察などへの謝罪や説明に追われながら、思いが頭をめぐった。「やってきた対策では、虐待を防げなかった」

広く活用されてきた対策のはずが

 「虐待の芽チェックリスト」…

この記事は有料記事です。残り1434文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    清川卓史
    (朝日新聞編集委員=社会保障、貧困など)
    2022年12月23日19時24分 投稿
    【視点】

      実際に入居者への虐待事件が発生してしまった特別養護老人ホームの施設長が取材に応じています。さまざまな防止策をとっていたのに虐待はおきた、とのことです。この問題の根深さ、複雑さを感じます。  厚生労働省が公表した最新の高齢者虐待調査。

    …続きを読む