今年の自然科学系のノーベル賞が発表された。日本人の受賞はなかったが、これまで日本からは25人が受賞し、有力な候補者と目される研究者も何人もいる。

 だが、これらの成果は、経済が右肩上がりで、国の研究費などをもとに、好奇心に従って研究ができた古き良き時代の功績だ。

 文部科学省の分析によると、ノーベル賞受賞者が受賞につながる研究をしたのは、30代~40代前半ごろが多く、受賞までには平均20~30年かかっている。

 日本では今、こうした若手や中堅世代が、研究費不足や過度なポスト競争、短期間で成果を求められるプレッシャーなどに疲弊している現状がある。研究費やポストがいつまで続くかわからない状況では、やりたい研究があっても腰を据えてできない。

 そして、こうした状況を見てきた若い世代が研究者という職業に魅力を感じなくなっている、という悪循環に陥っている。

 約10年前、私は工学部の学生だった。当時も「博士課程進学=将来が不安定」という印象を抱いていた。

 実際、日本の博士号取得者数は2006年度をピークに減少傾向だ。影響は将来世代にまで及んでしまっている。

 一方で、躍進が目覚ましいのが中国だ。論文数、他の論文に引用された回数が多い質の高い論文数などの指標で米国を抜き、世界1位となった。

 研究の世界の勢力地図が書き換わる中、近年、中国に渡る日本人研究者が増えていることを耳にした。

 彼らはなぜ、中国に渡ったのか。日本の研究力を復活させるヒントがあるのではと思い、取材を始めた。

 30代の男性研究者は、あるイ…

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