自民、立憲が名護市長選に本腰 沖縄「選挙イヤー」初戦落とせぬ理由

岸田政権公明自民共産立憲沖縄・本土復帰50年

上地一姫 神沢和敬
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 米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設先である名護市の市長選が16日、告示された。移設をめぐる世論が割れるなかで、政権与党と国政野党も支援に本腰を入れ、それぞれが負けられない戦いとなっている。米軍由来とみられる沖縄での新型コロナウイルスの感染拡大も、選挙戦に影響を及ぼす。

 政権与党にとって、再選をめざす現職の渡具知武豊氏を推す同市長選は、移設計画に直結する戦いだ。

 岸田政権は安倍、菅両政権と同様に辺野古移設を進める考え。岸田文雄首相は17日に始まった通常国会の施政方針演説で、「普天間飛行場の一日も早い全面返還をめざし、辺野古への移設工事を進める」と訴えた。名護市長選、秋の知事選で連勝し、国―県―市が足並みをそろえることで移設の加速を狙う。

 辺野古移設に批判があるのは与党側は織り込み済みだ。これまでの選挙と同様に、移設問題を争点化させることは避け、「市民生活に身近な政策で共感を得ること」(自民党幹部)を基本戦略とする。

 昨年末に沖縄県北部を訪れた菅義偉前首相は記者団に、辺野古移設について「そこが焦点にならない。そこはない」などと繰り返した。1月12日にオンラインで開かれた渡具知氏の総決起大会では、自民の茂木敏充幹事長はこう強調した。「子ども医療費、学校給食費保育料三つの無償化、ゴミ袋の半額化。4年間の名護市の住みやすさは着実に向上し、人口は2千人増加した」。公明党石井啓一幹事長も「これほど市民との約束を忠実に迅速に実現出来る市長は、なかなかいない」と語った。

 しかし、ここに来て政権幹部らの想定外の事態が起きた。昨年末から米軍基地新型コロナウイルスの大規模な感染があり、県内で感染が拡大。それにともない、基地問題が改めてクローズアップされることになったのだ。

 自民党関係者は「コロナによって政治に関心が高まっている」と、政権の対応が市長選の行方に影響を及ぼしかねないとの見方を示す。政府も、コロナ対策で手厚い支援態勢をとる。

 沖縄県の新規感染者が増え始めると、松野博一官房長官玉城デニー知事に直接電話をかけ「(まん延防止等重点措置の)適用要請が出された場合は速やかに検討する」と伝えた。措置の適用を決めると、自衛隊で看護師資格を持つ「看護官」や首相官邸や各省幹部と直接やりとりする情報連絡員らをすぐに派遣。官邸関係者は「沖縄には相当気をつかっている」と話す。

 日米両政府は、在日米軍関係者に対し10日からの14日間、「必要不可欠な活動のみ」の制限もかけた。

 それでも、自民内からは「米軍関係者はきちんと守ってくれるか。外出してトラブルを起こすと印象が良くない」との不安が漏れる。自民の衆院中堅は「名護で勝てば、その後の選挙に弾みがつく。負けたら、参院選や知事選の候補者選びが難しくなる」と言う。(上地一姫)

 立憲民主党など国政野党もまた、市長選に勝負をかける。「何としても必勝をしていきたい」。17日に国会内であった立憲の両院議員総会で、西村智奈美幹事長は移設反対派の新顔・岸本洋平氏の支援で所属議員に発破をかけた。

 「オール沖縄」の玉城デニー知事を支える国政野党側は、昨年10月の衆院選で名護市を含む沖縄3区で立憲前職が議席を失った。今夏の参院選や秋の知事選に向けて立て直しが急務だ。沖縄選挙イヤーの初戦で全国的にも注目される市長選は、その先の戦いに向けた指標にもなる。

 野党は、米軍由来といわれる新型コロナの政府対応を批判し、攻勢を強める。

 14日夜にあった岸本氏のオンライン集会には、立憲、共産、れいわ新選組、社民の4党代表がビデオメッセージを寄せた。

 立憲の泉健太代表は「沖縄のコロナの拡大は間違いなくアメリカ軍の入国のずさんさ、そして県内における行動の管理ができていないことによるものだ」と主張。「日米地位協定の改定は絶対に必要だと強く言っているが、政府は全く応じようとしない。そんな政府と同じような歩みをしている市政ではいけない」と訴えた。辺野古移設についても、軟弱地盤の存在や「防衛環境の変化」を理由に中止を求めた。

 共産の志位和夫委員長は、「名護市が抱えている課題は基地問題だけではありません」と書かれた現職陣営のビラを掲げ、「争点そらしに必死だが、『政府と対立してばかりで良いわけがありません』とも書かれ、新基地受け入れを説いている。頭隠して尻隠さずだ」。移設問題へのスタンスを明らかにしない現職側の矛盾を指摘した。

 泉氏ら4党幹部は15日の名護市入りは、コロナの感染拡大のため見送った。一方、17日開会の国会での代表質問でも地位協定見直しや基地移設問題を岸田文雄首相らに問い、政権与党の問題点を追及していく構えだ。「沖縄県民の米軍や政府への批判をしっかりと受け止めていかないといけない」。立憲幹部はそんな決意を語る。(神沢和敬)

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