IRの行方は、揺れる和歌山 住民投票求める署名、1カ月で2万筆

西岡矩毅 久保田侑暉 筒井竜平 箱谷真司
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 和歌山県が進めるカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致計画が揺れている。事業者の有力候補の撤退など、波乱続きで計画が失速する中、建設予定地・和歌山市の市民団体が9日、賛否を問う住民投票の実施を求める2万筆超の署名を市選挙管理委員会に提出した。(西岡矩毅、久保田侑暉、筒井竜平箱谷真司

 市選管に提出された署名は2万833筆。市長に住民投票条例の制定を求めるのに必要な水準(有権者の50分の1)の3倍超にあたる。11月6日~12月5日の1カ月で集まった。

 市民団体「カジノ誘致の是非を問う和歌山市民の会」の共同代表で、請求代表者の豊田泰史弁護士は、署名提出後の会見で「IRは重要な政策課題で、まずは住民の意見をきいてほしい。今後は市議会議員の先生方の見識が問われることになる」と話した。

 署名が有効だと市選管が認めれば、条例の制定を尾花正啓市長に直接請求できる。地方自治法に基づき、請求を受けた市長は20日以内に市議会を招集し、意見をつけて条例案を提出しなければならない。順調に進めば、市議会の招集は1月下旬ごろになる見込み。

 市議会(定数38)のうち、議長を除く過半数(19人)が賛成すれば、住民投票が行われる。誘致に前向きな自民・公明会派(計16人)は現時点で、態度を明らかにしていない。

 県はIR事業の具体的な中身を示す整備計画を作成中で、来年4月28日までに国に提出し、審査を受ける。提出前に和歌山市の同意を得る必要があり、仮に住民投票が実施されれば、結果は計画に影響を与えることになる。

 条例に基づく住民投票に法的拘束力はなく、首長が結果に従う義務はない。しかし、住民投票に詳しいジャーナリストの今井一さんは「過去に全国で420件以上行われた住民投票で、(首長や議会が)結果を無視したことはほとんどない。法的拘束力が無くても、政治的な拘束力が生まれる」と指摘する。

 IR誘致を進めていた横浜市でも住民投票の実施を求める署名が提出されたが、1月の市議会で否決された。今夏の市長選でIRに反対する候補が当選し、市は誘致を撤回した。

事業者・資金…誤算続く計画

 和歌山県は、和歌山市の人工島「和歌山マリーナシティ」へのIR誘致をめざしている。県が選んだカナダ投資会社クレアベストグループの提案では2027年秋の開業を予定し、初期投資額は約4700億円。年間1300万人が訪れ、2600億円の経済波及効果があると見込む。

 ただ、これまで誤算が続いている。事業者の公募手続きでは、有力候補だったマカオのカジノ関連業者サンシティグループが資金洗浄に関わった疑惑が浮上し、手続き終盤の5月に撤退を発表。県は7月に唯一残ったクレアベストを選んだが、審査対象の13項目のうち「事業運営能力」など10項目でサンシティの点数が上回っていた。

 クレアベストは公募終了後の9月、米カジノ大手シーザーズ・エンターテインメントも運営に参画すると発表したが、どの程度関わるかは不透明なまま。審査時に名前が挙がっていなかった同社の関与が大きくなれば、県による公募手続きの妥当性も揺らぎかねない。

 資金集めも難航しているもようだ。県とクレアベストは11月の県議会委員会で、4700億円の調達方法など基本的な情報を示す予定だったが、交渉が間に合わず断念。IR整備計画を国に提出するには県議会の承認も必要だが、県議から「県民に説明できる状況ではない」との批判が相次ぎ、同月から予定していた県民向け公聴会も延期した。県の田嶋久嗣・IR担当理事は「思ったペースで民間同士の交渉が進んでいない」と認めた。

 IRに詳しい三井住友トラスト基礎研究所の大谷咲太・上席主任研究員は「日本初のカジノで事業のリスクが大きい上、和歌山はインバウンド訪日外国人客)を含めた観光客が多くない。資金を集めるのは難しいのでは」と指摘する。

 IR誘致をめぐっては、大阪府・市と長崎県もすでに事業者を選び、手続きを進めている。オーストリアの「カジノオーストリア・インターナショナル」を選んだ長崎県は、10日に県議会委員会に整備計画の素案を示す予定だが、県によると、和歌山と同様に資金の調達方法などの交渉が終わっていないという。

 米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの連合体と組む大阪府・市は、年内に資金調達方法などを含む計画の概要を公表する方針という。

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