向田邦子、村上春樹ら執筆 街の薫り届け、「銀座百点」が800号

山本亮介
[PR]

 東京・銀座の月刊タウン誌「銀座百点」がこの夏、創刊800号を迎えた。新型コロナが影を落としても、街の薫りを全国に届けている。

 創刊は1955(昭和30)年。渋谷や新宿の台頭に危機感を募らせた銀座の100の専門店が前年に結成した「銀座百店会」が、街の魅力を発信しようと発行した。

 発行部数は約6万部で、加盟店が原則500部ずつ買い取り、得意先に贈ったり、店先から持ち帰ってもらったりするのが特徴。有料で年間購読(送料・税込み4248円)もできる。創刊時から変わらない変型B6判(縦約13センチ、横約18センチ)は、上着の内ポケットやハンドバッグに収まるよう考案された。

 タウン誌のはしりに創刊当初から豪華な執筆陣が並ぶのは、銀座に本社があった文芸春秋の幹部が手ほどきした縁からだ。作家・向田邦子さんの連載はその後、単行本「父の詫(わ)び状」に。80年代から編集部が全て企画・編集を手がけるようになってからも、池波正太郎さんや村上春樹さんが原稿を寄せ、最近も人気ミュージシャンの尾崎世界観さんが誌面を飾った。

 今年7月発行の800号には、歌舞伎俳優の片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんの特別対談を掲載。銀座で長く店を営む洋服店や菓子店の社長らが「未来へ向けて、できること」と題し、高齢の客への配慮や、自社で職人を養成する試みを語り合う企画が並んだ。

 2015年から11代目の編集長を務める田辺夕子さん(49)は「文芸、芸術、銀座という雑誌の三本柱を意識しました」と話す。

 創刊から66年がたったいま、加盟店は124店となり、結成時の店も38店残る。昨秋、入会したユニクロの広報担当者は「国内きっての繁華街銀座で長く続く百店会に名を連ねることができたのは、とても光栄なこと」と話す。

 ただ、この街にもコロナが暗い影を落としている。緊急事態宣言中に休業を迫られた飲食店主の言葉からは「自分の料理でお客を楽しませる人生そのものを奪われた苦しみを感じた」と田辺さんは振り返る。

 対談が困難になるなど刊行も苦難の連続だったが、そのたびに銀座で生きる人や、この街を愛する人が助けてくれた。編集や企画で行き詰まると決まって街に出て、顔なじみとの何げない話に着想を得た。

 「コロナ禍で銀ブラはできないけど、百点は読みたいから」と有料の年間購読者は増え、北海道から沖縄まで約千人に。田辺さんは「変わらない『らしさ』を残しながら、いち早く変わり続けてきたのも銀座。これからも街の薫りを銀座百点らしく発信していきたい」と話す。山本亮介

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら