広がる産後ケア事業、でも自己負担に自治体の差

岩波精
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 【新潟】出産後の母親に心身のケアや育児支援をおこなう「産後ケア」に取り組む自治体が増えている。新型コロナウイルスの影響もあって、頼れる人が身近にいない女性は多く、利用も広がっている。一方で、自治体によって自己負担額に大きな差があるなど、課題も見えてきた。

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 新潟市の女性(37)は1月、1人目の女児を出産した後に「みちつき助産院」(新潟市西区)で、産後ケアを利用した。赤ちゃんとともに助産院に泊まる「宿泊型」で、4日間滞在した。子どもは予定日より1カ月早く、約2千グラムで生まれていた。「産後ケアがなければ自信のないまま育児に突入していたと思う。利用して本当によかった」と振り返る。

 妊娠中はコロナ禍でマタニティー教室などが開かれなかったという。「初めての妊娠なのに知識がないまま出産した。しかも低体重児で、不安が募っていた」という。出産した産科クリニックで産後ケアを勧められ、退院後にそのまま助産院に向かった。

 産後ケアでは授乳や沐浴(もくよく)の指導を受けられるほか、悩みや体のトラブルなどを相談できる。女性は助産師に気兼ねなく相談できる環境で、心身ともに落ち着いたという。途中からは夫も一緒に宿泊した。

 子どもはいま生後4カ月。しっかり母乳を飲み、よく笑うようになった。「産後ケアがあれば楽になれるママは多いはず。使いやすい制度になってほしい」と話す。

 みちつき助産院は1999年開業。2007年度から新潟市の宿泊型の産後ケアを受け入れてきた。現在は年間20~30人が利用している。

 助産師の更科佳子さんは「自宅に戻ったお母さんたちは、小さな命を預かる責任に押しつぶされそうになってしまう。最低でも1カ月、できれば2カ月はお母さんが安心できる場所を提供することが必要」という。

 コロナ禍で里帰りできない妊婦や、実家の親を呼べなくなった人も多い。「お母さんたちを支える役割はより重要になっている」。だが、自己負担額がネックとなって利用に二の足を踏む人も多いといい、更科さんは「本当に必要な人がためらわずに利用できる金額にするべきだ」と話す。

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 産後ケアには、一定期間泊まり込んでケアを受ける「宿泊型」、日中に施設に行く「日帰り型」、自宅に助産師らが出向く「訪問型」の3種類がある。4月の改正母子保健法施行で、産後ケア事業に取り組むことは市区町村の努力義務とされた。

 県内全30市町村に取材すると、新潟、長岡、五泉、魚沼市と湯沢町の5市町が3種類全てを、ほかに17市町村が1~2種類を実施していた。聖籠町は「コロナ禍で里帰り出産できないという声も寄せられた」と、今年度から宿泊型を始めた。

 ただ、自己負担額には自治体ごとに差がある。

 宿泊型を1996年度から実施している新潟市。市内外の医療機関など18カ所に委託しており、昨年度は60人が利用した。施設ごとの利用料は、1日あたり2万2千~3万5400円。市は所得に応じて同1万~2万円を補助しており、差額が自己負担だ。

 一方、五泉市は所得に関わらず宿泊型に同2万円を補助しており、医療機関によっては無料で利用できる。ただ、「支援してくれる人がいないなど、本当に必要な人に限定したい」としており、希望しても利用できないケースがあるという。昨年度の利用者は1人だった。

 魚沼市は18年度に同5千円を自己負担する仕組みで宿泊型を始めたが、利用者がおらず、19年度から同3千円に引き下げた。その後は年間数名が利用しているという。

 一方、8市町村が産後ケア事業を未実施だが、「ヘルパー派遣や、子育て支援施設での相談などを実施している」という上越市のように代替の独自事業に取り組む例が少なくなかった。

 産後ケアを昨年度から無償化したのが鳥取県だ。所得制限なく、全県で無償化した全国初の例という。

 同県によると、宿泊型や日帰り型の自己負担分(1日あたり3千~5千円)などをゼロにした。「ケアが必要なのに、費用がネックで利用をためらうケースがあった」という。今年度は予算300万円を確保した。

 厚生労働省によると、産後ケア事業に取り組む自治体は年々増え、20年度は全国で全1741市区町村のうち1158市区町村(67%)が実施。国は「24年度までに全国展開を目指す」としている。

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 産科医療機関が少ない地域では、委託先が1カ所に集中する事態も起きている。十日町市の「たかき医院」(17床)は、隣の長野県栄村を含め周辺6市町村の産後ケア事業を引き受けている。

 同院は16年度に産後ケアを始め、今は年間で約30人が宿泊型を、約60人が日帰り型を利用している。婦人科の入院患者もいて、満床に近い日もあるという。副院長の仲栄美子医師は「産後ケアは絶対に必要な制度」とした上で、「しっかりケアをしたいが、お産が重なると手薄になることもある。地域には医療従事者が少なく、人手が足りない」と明かす。

 特に宿泊型の場合、母親を休ませるために夜間は赤ちゃんを新生児室で預かることがある。その場合、看護師などの資格がなくても、泣いたら抱っこしてミルクを飲ませることはできるという。仲さんは「退職した保育士など、行政がサポート人員を手配してくれれば助かる」と話した。(岩波精)

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