御巣鷹包む鎮魂の音色 県警OBが演奏 仲間の遺志継ぐ

編集委員・小泉信一
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 群馬県警の元警察官で音楽隊のメンバーでもあった倉林良光(よしみつ)さん(73)が29日、日航機墜落事故の現場となった御巣鷹の尾根上野村)の山開きに向かい、愛用のデジタルホーンで慰霊演奏をする。亡き音楽仲間から譲り受けた楽器で、演奏は2009年から続けてきた。哀愁あふれる音が今年も御巣鷹に響き渡る。

 「コロナ禍でもあり、大勢の人を集めての演奏はできませんが、山が受け入れてくれるような気がするのです。音楽には人知を超えた力があるのではないでしょうか」と倉林さんは話す。

 持病のため登山は控え、ふもとにある「慰霊の園」を訪ねる。事故で犠牲になった歌手坂本九さんのヒット曲「見上げてごらん夜の星を」など懐かしい日本の名曲を演奏する予定だ。

 倉林さんは県立前橋商高時代からブラスバンド部に所属。県警音楽隊ではテナーサックスを担当したが、やがて大久保清事件や連合赤軍事件など大きな事件に駆り出され、楽器を手にする時間はほとんどなくなった。日航機墜落事故が起きた1985年8月12日は、県警本部から部下とともに現場に直行。捜索のための後方支援などで約1カ月半、休まず働いたという。

 「雲一つない青空。太陽が容赦なく照りつけ、汗が噴き出るように出たのを覚えている。遺体の焦げたにおいが立ちこめ、現場はまさに凄惨(せいさん)を極めていた」

 2008年3月に定年退職をした倉林さん。再び音楽活動を始める中で、クラリネットやフルートなど様々な音色が出せる電子管楽器デジタルホーンに興味を抱くようになった。前橋で開かれた演奏会場で、奏者で第一人者の品田光美(みつよし)さんから直接手ほどきを受けたのは翌年の5月。「優しく染みわたる音色。楽器を奏でるのではなく、歌っているという感じだった」。この数日後、品田さんは藤岡市内の国道を運転中、車ごと川に転落し、亡くなった。57歳だった。

 レパートリーは「1千曲は下らない」と話していた品田さん。本業は、物流会社の運転手だった。休日をフルに使って演奏活動に打ち込み、御巣鷹での慰霊演奏も10年余り続けてきた。

 倉林さんによると、品田さん自身が、事故のあった羽田発大阪行きの日航機123便に乗るはずだった。だが当日、予定が入り、急きょキャンセル。「私の代わりに犠牲になった人がいた。その人に報いるのが私の責務だ」と話していたという。

 品田さんの遺品となったデジタルホーン。遺族からは「ぜひ慰霊演奏を続けてほしい」と背中を押されたという。倉林さんは話す。

 「事故から36年。記憶を風化させないためにも体が続く限り、慰霊演奏を続けていきたい」(編集委員・小泉信一

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