川の上の市場、70年後の幕 最後まで残った1店の思い

岩波精
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 新潟県新発田市中心部を流れる新発田川の上にある市場で、最後まで残っていた店が6月に閉じることになった。戦後に建設されたとみられる市場も約70年の歴史に幕を下ろす。

 川幅は約3メートル。その上に間口12メートルほどの木造平屋建ての市場がある。壁にはさびた看板がかかり、「公設鮮魚市場」の文字がうっすら残る。市によると、1951年ごろに建てられたとみられ、県が許可したため「公設」と名付けられたようだが、詳しいことは分からないという。鮮魚や生花の店が3、4軒あったが、数年前からは乾物を扱う松井商店だけになっていた。川にかかる市場は全国的にも珍しいという。

 市場の中央部分にある間口2間半の店先には、身欠きニシンや豆、イナゴのつくだ煮が並ぶ。店を守ってきた松井ヱミさん(88)は「もったいないけど、私らもだんだん年いくからちょうどいいんでないの」と話す。

 毎朝6時前に店を開ける。客は1日に5、6人。日曜と元日以外は休まず営業してきた。店には川から冷たい風が吹き込む。松井さんは足元に置いた一斗缶に練炭コンロを入れ、かじかむ手を温めていた。

 かつて、店の近くには常設の露天市場もあり、リヤカーで野菜を売りに来る行商人や生花店でにぎわった。「人通りも多くてね。お客さまがどんどん来たときは楽しかった」。数年前にはその市場も姿を消し、高齢の常連客は出歩かなくなった。土地の貸主から閉店を持ちかけられたこともあって、6月で終えることにしたという。

 22歳で結婚してから、子育ての間もずっと働き続けてきた。松井さんは「趣味なんてないもの。車に弱いから旅行もいかない。店を閉じたらうちで寝るわ」と笑った。(岩波精)

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