「脱炭素」身近で何ができる? 我がことにするヒント

編集委員・石井徹 神沢和敬 戸田政考
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 地球温暖化対策のため、二酸化炭素など温室効果ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」にする動きが国内外で本格化してきました。ただ、将来世代のために必要とはいえ、我がこととして捉えづらい面もあります。毎日の暮らしに身近な電気や車といった話題から脱炭素の道を探ります。

走る蓄電池、家計に貢献 EV利用6年目の記者は

 電気自動車(EV)に乗って6年目だ。現在は2台目で、蓄電池容量は1台目の2倍以上の62キロワット時になった。1回の充電による航続距離も1台目の倍の400キロぐらいになった印象だ。以前は遠出して電池が減ってくると、急速充電スタンドがどこにあるか気が気でなかったが、そんな心配もなくなった。ただ、EVが増えたおかげで充電スタンドが埋まっていることが増えた。1回30分かかるので長い。

 EVが働いているのは、走っている時だけではない。自家用車は止まっている時間が9割以上とされる。ガソリン車なら無駄な時間だが、EVは蓄電池として使える。家庭用蓄電池は、5キロワット時で100万円以上はする。EVは、その10倍以上の容量を備えた、まさに「走る蓄電池」だ。家族数で違うが、1日の世帯当たりの電気使用量は約10キロワット時と言われるので、停電時には約1週間分の非常用電源になる。

 車両価格は約420万円とやや高い。だが、メーカーによると、国や自治体の補助が、地域によって最大で140万円以上あるそうだ。約280万円なら、ガソリン車とさほど変わらない。EVから住宅に電気を送るには、専用の設備も必要。うちでは66万円かかったが、国と東京都から39万円の補助が出た。

 我が家へのEVの貢献で最も大きいのは毎月の電気代だ。うちでは夜間電力をEVに充電して昼間に使っている。昨年11月の電気使用量は約800キロワット時で約1万2千円。夜間電力が1キロワット時約13円なのに対し、昼間電力は使用量によって約29~45円。EVがなかったら約2万3千円余計にかかった計算だ。この差は大きい。ガソリン代もかからないので、元は取れている。(編集委員・石井徹

世界で市場拡大、競争過熱

 日本政府は昨年12月、2030年代半ばまでに軽を含む乗用車の新車販売をハイブリッド車(HV)を含む電動車にする目標を掲げました。

 一方、世界では英国が30年までにエンジン車の新車販売禁止を、35年にはHVも禁止にする方針を打ち出すなど、各国で規制が厳しくなる見込みです。

 そのため電気自動車(EV)市場は拡大が見込まれています。英調査会社のLMCオートモーティブによると、20年に世界で売られたEVは184万台で全体の2.8%でした。それが30年には1571万台に伸び16.2%に達すると予測します。EV最大手の米テスラは、20年に約50万台だった世界販売台数が、今後も年5割のペースで増えていくと見込んでいます。

 そんななか、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)は1月下旬、35年までにHVを含むエンジン車を全廃する方針を打ち出しました。トヨタ自動車も20年代にEV10車種を投入する方針。日産自動車は23年度までに8車種以上のEVを投入する計画をたてています。IT大手の米アップルのEV開発が報道されるなど、業界をまたいだ参入も進み競争は過熱しそうです。

 日系メーカーが力を入れているのは次世代電池の開発です。トヨタは昨春にパナソニックと新会社を設立して開発を加速させようとしています。価格の低下や充電時間の短縮が期待されているほか、中韓勢に後れをとっている電池分野での逆転も狙います。

 ただ、課題もあります。日本自動車工業会豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は「(日本で1年間に売られる)乗用車400万台をすべてEV化したら夏の電力使用のピーク時に電力不足になる」と指摘します。また、急激なEV化はエンジンや部品などの関連産業に甚大な影響を与えるとして、「この国にものづくりを残して雇用を増やすモデルが崩壊する恐れがある」と話しています。(神沢和敬)

我が家の電気、どう選ぶ

 遅ればせながら、我が家も再生可能エネルギーに切り替えることにしました。ただ、この冬は電力市場の価格が高騰していて、電気代という観点ではタイミングが悪くもありました。手続きや会社選びのコツ、注意点などを、再エネへの転換を促す活動「パワーシフト」の事務局を務める環境NGO「FoEジャパン」の吉田明子さんに聞きました。

 自宅に太陽光パネルがなくても、再エネを売っている会社から電気を買うことで家の電気を再エネにすることができます。マンションやアパートなど集合住宅でも個別に電気を契約していれば基本的に可能です。

 切り替えの流れはこうです。①電気を買う電力会社を選ぶ②電気使用量のお知らせを用意し、「お客さま番号」や「供給地点特定番号」を把握する③切り替え先の会社のウェブサイトからプランを選び、料金シミュレーションをする④納得いけば手続きを進める。現在の電力会社への連絡はいりません。

 「手続き自体は10分もあればできてしまうほど簡単なのですが、実は①の電力会社選びが難しいんです」と吉田さんは言います。一言で再エネといっても会社によって特徴は違うからです。電力の地産地消や再エネ比率の高さ、どこでだれが発電しているか「顔が見える」をうたう会社もあります。吉田さんは「ポイントは、共感できる会社かどうか」と言います。

 電気代は、家族の数や契約プランにもよりますが、「同じか少し安くなる場合が多い」と吉田さん。ただ、オール電化で安い夜間電力を使っている場合は逆に上がってしまうケースもあるようです。1年余り前に再エネに切り替えた神奈川県横須賀市の鈴木陸郎さん(78)もその一人。「少し上がったけど、将来世代のことを考えると納得している」と話します。

 注意点もあります。昨年末の寒波や燃料不足などの影響で電力需給が逼迫(ひっぱく)し、年末から1月にかけて市場価格が急騰しました。いまは落ち着きましたが、日本卸電力取引所の市場価格が普段の10倍以上になったときもありました。これと連動した料金プランの会社も多く、電気代に跳ね返るおそれがあります。

 我が家の場合、以前の市場価格なら電気代は少し安くなりましたが、この影響でわずかに上がるというシミュレーション結果でした。市場価格を意識して、切り替えを考えることも大切です。(戸田政考)

再エネ 「50年に5~6割」

 菅義偉首相は昨年10月、温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにするカーボンニュートラルの方針を表明しました。再生可能エネルギーをどれだけ増やせるかが、実現への鍵になります。太陽光パネルや風車は、製造時や輸送時は温室効果ガス排出がありますが、発電時には出さないからです。

 経済産業省によると、18年度の日本の発電量で最も多いのは火力で77%。再エネは17%にとどまります。現在の計画では30年度時点の再エネは22~24%、火力が56%と依然として半分以上を占めます。

 政府が昨年末に策定した「グリーン成長戦略」では、再エネで「すべての電力需要をまかなうのは困難」としつつも、議論を深めるための参考値を示し、50年の総発電量に占める再エネ率を5~6割としました。

 一方、環境省は「日本には電力供給量の最大2倍のポテンシャルがある」と試算。採算性などは考慮されていないものの、長崎県五島市洋上風力発電のように地域で成功モデルを作り、各地で再エネの拡大に取り組んでいます。

 事業活動のすべての電力を再エネでまかなおうとする国際的な取り組み「RE100」に加わる企業も増えています。アップルやグーグルなど280以上の企業が50年までに再エネ100%を掲げ、再エネ調達のニーズは高まっています。

 太陽光パネルを設置する家も増えています。電力の自給自足をするには作った電気をためておく蓄電池が安くなることも欠かせません。

 太陽光や風力はもともと発電量が天候に左右されやすく、大規模な太陽光発電所(メガソーラー)や風車の設置には、景観や騒音などで反対意見が出ることもあり、課題にもなっています。(戸田政考)

「経済力が必要」「自動車の利用減らそう」

 アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

●経済力前提の策ばかり

 エコカー優遇策や住宅補助や太陽光発電補助など、それらを検討できる経済力がある人しか導入できない策ばかり聞こえてきて、自分ごとじゃないというより関われないと感じました。住宅補助があっても家賃は変わらず、大家さんに太陽光発電導入コストのため電気設備代を払う立場からは、経済力なしで出来ることは限られます。(東京都・30代女性)

●太陽光発電、新築時は当たり前に

 我が家は太陽光発電で12年。年間自給率70%ほど。これからの新築住宅に太陽光パネルと蓄電池を義務づけるべきです。税制などで工夫することで推進したら日本の必要電力の50%ほどは賄えるのではないでしょうか。新築時であれば200万~300万円の経費増加も「当たり前」となれば納得して設置すると思います。温暖化対策だけでなく災害対策にもなります。そのためのシステムのさらなる研究開発に政府は推進策をしてほしい。電気自動車ではバッテリーを取り外し可能にし、スタンドで満充電のものと交換できる仕組みにしてください。(東京都・70代男性)

●再エネの推進には強い規制が必要

 再生可能エネルギーの普及が進みつつあるのは結構なことだが、森林破壊など別の環境問題を引き起こし、さらには地域住民とのトラブルも続発している。市場メカニズムを利用した環境保全政策には、強力な規制が不可欠。それを念頭において、建造物への積極的な太陽光パネル設置、マイクロ水力発電装置の可能な限りの稠密(ちゅうみつ)な展開、浮体風車ベースの洋上風力発電や、波力・潮汐(ちょうせき)発電の大規模展開といった政策と、環境負荷や不安定さ・リサイクルの容易化のための積極的な技術革新を推進する必要があるのではないか。温暖化対策としての原子力は、汎(はん)人類的には一定の必要性があるかもしれないが、日本列島に大量に存在する現状は危険だと考える。(三重県・50代男性)

●自動車利用減らすことが大切

 電気自動車を増やすことよりも、自動車利用が減ることが大切だと思います。公共交通機関や自転車などの利用を増やす。大都市内での自家用車の利用制限などを行う。電気自動車が増えても、車体の製造などにエネルギーを使うことでしょう。エネルギー使用量が増えれば、化石燃料発電や原発の依存から抜けられない。また蓄電池にレアメタルが必要で、レアメタル産出国の環境を破壊することになる。低賃金でその国の人たちを働かせる不公正が拡大する。我々が電気自動車の利用で、「環境にやさしい生活」を送っていると悦に入ることで、電気を供給する地域や、資源産出国にしわ寄せをすることは避けるべきだ。誰かに犠牲を押し付けるのはやめましょう。(埼玉県・60代男性)

●災害多発、EVには改良必要

 豪雪・豪雨の多発する昨今、現在の電気(のみ動力とする)自動車は我が国の自然環境に適合していると考えられません。更なる改良が加えられれば購入検討に値する。CO2排出を温暖化の原因とするなら、米中印など排出量上位国が改善をすべきでしょう。電力自由化が電力危機の一因となっていたり、自然環境を破壊する「再生可能(自然由来?)エネルギー」推進など、行政はあてになりません。原子力など安定して安価な電力供給を確保しつつ、技術開発による化石燃料使用量の軽減に努めることが肝要と考えます。(栃木県・50代男性)

●長期的目標で大衆は動かせない

 毎年台風の雨量が増え、河川の氾濫(はんらん)もまた増えているのも、温暖化が原因と聞いている。日常生活を常に快適にすることを目標に技術を開発してきた人間は、きっと地球環境が破壊されて荒れ果てても、まだその場しのぎに力を入れ、技術を進化させ生き延びる方向を選択するに違いない。長期的視点に立った対策や計画、目標を大衆に浸透させ同じ方向を向いて行動させることは不可能だと思う。(東京都・50代女性)

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神田明美、藤田さつきも担当しました。ご意見、ご提案はasahi_forum@asahi.comメールするへ。

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