野球の「強さ」とは 組織力、思考力…それぞれの模索

岡純太郎
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 強くなるって、どういうことだろう――。夏の1勝を手にするため、必要なものやことを探し続けている選手や指導者がいる。ヒントはグラウンドの中にも、外にもありそうだ。

 ダイヤモンド上に整列した選手たちが一斉に駆け出した。マウンド上に集まると、人さし指を立てた手を空に突き上げ、「よっしゃー」の叫び声。顔は喜びに満ちあふれている。

 小松大谷では毎日、練習前にこれをする。石川大会決勝で勝利し、甲子園出場を決めた――。その瞬間のイメージを共有し、一人一人が普段から「今、何が必要か」を考え、行動するために採り入れたルーティン。その名も「予祝(よしゅく)」だ。

 ユニークなメニューを始めたのは、「自分たちは強くない」(溜田(ためだ)幸士朗主将)という自覚だった。新チーム結成直後、昨年の秋の県大会。3回戦で小松商業に4―5のサヨナラで敗れた。内野手だけで失策が9個。溜田君は試合後、チームメートに声をかけ、全員で話した。「同じことをやっていてはだめだ。新しい歴史を作りたい」。そんな溜田君の姿勢を生長(いきなが)蓮君(3年)は「らしくていい」という。

 「改革」は他にもある。冬場の朝練の1時間を利用し、経営者やベテラン教師を学校に招く「モーニング・セミナー」を始めた。「色んな人の話を聞きたい」との部員の声がきっかけだ。テーマは「組織の中で必要とされる人材とは」や「目に見えない部分で支えてくれる人の存在」。

 副主将の三島大輝君(同)は「全てが野球につながるように感じた」。メモ帳には講義内容がびっしり。「さらにチームでの個人の役割を考えるようになった」という。

 溜田君はいま、強さをこう定義する。勝ちに誰よりもこだわりつつ、目標に向けて努力できること。「最強の自分はいつと聞かれたら、今、と胸を張って言いたい。仲間と一緒に優勝したい」と初戦を見据えた。

 指導者や指導法にも変化の兆しがある。

 一昔前までグラウンドには「ばかやろう」「帰れ」「やめてしまえ」という声が飛んでいた。厳しい言葉を発する監督、食らいつく選手、の構図があった。

 「今の時代、それでは勝てない」。鵬学園の浅井純哉監督はきっぱり言い切る。前任の金沢高校で春夏あわせて11回甲子園へ。今年は鵬学園を春の県大会4強に導いた。その経験から「怒ることは大事。けれど何を怒るのかがもっと大事なんです」と説明する。

 浅井監督にとって野球は「先読みのスポーツ」。投げたボールの球種とコースによって、打球の方向はある程度決まる。相手打者の能力も考え、「この先に何が起こるか」を考えれば、おのずと守備位置は決まる、というわけだ。

 浅井監督は「先に起こる可能性の高いことを予測できれば、勝率がグンと上がる。自分の頭で考えられる選手を育てるため、プレーの結果にはあまり怒りません。怒るのは、なぜその結果になったのかを考えていないときです」。

 指導を受ける主将の竹中晃太郎君(同)は「前より強くなった実感がある」と手応えを語る。「監督は問いかけるように怒る。答えを簡単に教えてもらえない分、選手でよく話し合うようになった」という。

 中村俊介君(同)も「先発以外の部員も、それぞれの立場で『次』を意識して動くようになった」と変化を感じている。一人一人が考え、行動するチームとして、夏に挑む。(岡純太郎)

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