「AI時代の申し子」は将棋で人との練習は基本しない

聞き手=大津智義 編集委員・堀篭俊材
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 将棋界で「AI時代の申し子」とも呼ばれるのが千田翔太七段(25)。コンピューター将棋で道を究めようとする若手有望株に、AI(人工知能)とどう向き合っているのか教えてもらった。

 ――AI搭載のソフトを使い始めたのはいつ、どのような理由からだったのですか。

 将棋ソフトの存在は小学6年生の時から知っていました。ソフトの棋譜を見始めたのは修業時代の2012年ぐらいです。

 本格的に使い始めたのは、プロになって1年が過ぎた14年6月ぐらいですかね。ちょうど王位戦の挑戦者決定戦で敗れて、棋力の向上が目的でした。そのあたりで人間の棋風に割と近くて、強く見えたソフトが複数あったので、これはもう人間は歯が立たないなと当時から思っていました。

 ――日々の練習で、ソフトは1日どれくらい使うのですか。

 私の場合はソフトの棋譜を並べるようになってから、人間の棋譜を並べることが減っていって、今はゼロです。14年の8月だか10月に一気にゼロにしようと、思い切ったつもりでやりました。10年、20年先ですけど、他の人がソフトで学習していない図というのが思い浮かばなかったのです。ソフトで学習するようになるというのが確信的にありました。

 ――コンピューター同士の対局をみながら学ぶということですか。

 そうです。片方はものすごく強く、片方は自分と近いくらいの棋力で練習対局をやらせたりします。私は駒を盤には並べずに、頭の中で並べています。パソコンで5手くらい進めて、あとは頭の中で5手並べ返したり、再生や逆再生をしたりとか。盤を使わずにパソコンの画面と頭の中で並べ返しています。ただ、パソコンを使っていると目がきつくなったり、疲れ目になったりして、そこはちょっとつらいですね。

 ――練習もやり方が変わったのですか。

 練習対局は相手がソフトに変わりましたね。(人とは)ものすごい短時間の将棋で誘われればやったりもしますが、基本的にはやりません。

 ソフトだったら棋力を調整することが可能で、例えば10秒で指す設定とか、15手先しか読みませんという設定ができます。そうすることで、自分よりも弱くもできるし、ちょっとくらい強くもできます。対人だったら、日を合わせたりして、集合しないといけません。それに、相手は考える時間があるので、ソフトを使うことで時間の短縮になるわけです。

 ――AIには思考プロセスが分からない「ブラックボックス」という問題が指摘されます。

 プロの将棋も棋譜しかなかったら、それもブラックボックスです。何で指したのかという理由は一切載っていないので、従来の棋譜並べでもそういうことはありました。むしろ、コンピューター同士の将棋の方が評価値と読み筋という、いま何点だとか、これをやるとこういう読み筋になるというのが表示されるので、人間同士の棋譜よりもむしろ出ている情報は多いですね。

 ――今後は、最初からAIを使って練習を積む子どもたちが現れますね。

 それは楽しみですね。強くなるまでに人間の棋譜とかをたくさん学習してしまうと、悪い感覚が身につきます。人間っぽい悪い手というのが混じっているからです。今後は初期の段階から自分の頭だけで考えてある程度までいって、あとは他人の棋譜は参考にせず、ソフトに置き換えた方がいいんですかね。ソフトだけでいけるのであればそれが好ましいかなと。棋譜並べの題材としてはソフトの方がいいと思います。

 ――人間の棋譜の悪いところとはどういう部分なのでしょうか。

 人間は、分かりにくい展開を選びたくないというのが一番大きいと思います。人間から見たときの分かりやすさは、駒得が非常に大きい。なので人間にとって分かりやすい手、分かりやすい展開しか選べなくなってしまうというのが、従来の棋士なのだと思います。

 ソフトだったら弱いソフトでも、駒を捨てる手を気にせずにやりますね。駒の働きの方が大きくなるような手を指します。

 ――AIがさらに強くなっていくと、人間の棋士の存在意義はどうなると思いますか。

 基本的には、ファンが楽しめるかというところが一番大きいと思います。強さと面白さはイコールではありません。実際、ソフトが人間を超えたことによってファンが減ったということにはなっていません。むしろ、評価値を通してみることができるようになったので、グラフがカタカタ上がったり下がったり、今どっちが優勢なのかが明確に出されるようになりました。対局者以上に情勢を把握できるようになったんですね。

 終盤は、ミスしないかなど、緊迫感があるものに変わりました。これまで分からなかった魅力が分かるようになった、ということはあると思います。(聞き手=大津智義、編集委員・堀篭俊材

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