羽生善治は思う「人がAIに寄りすぎるのはどうなのか」

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聞き手=大津智義 編集委員・堀篭俊材
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 人工知能(AI)が人間を追い越したと言われる将棋界で、棋士たちは何を感じているのだろうか。数々のタイトルを手にし、今なおトップ棋士であり続ける羽生善治九段(48)に聞いた。

 ――AIを搭載した将棋ソフトと向き合うことはありますか。

 時間は決めていないですが調べる時間は作るようにしています。自分がちょっと疑問に思ったときとか、違う発想が必要かなと思ったときに調べるという感じです。(使い始めたのはここ)2年くらいですかね。ソフトが公開されていると知ってからです。

 ――実際に使ってみて将棋の幅は広がりましたか。

 考え方の幅は広がった感じがします。今まではこういう手は考えなかったけど、考えてみようとはなったので。でも考える総量は人間の場合、決まっているため、幅が広がることが本当にいいのかという問題があるんですよ。狭く深く考えた方がいいときもあります。プラスになるかどうかはまた別の問題です。

 ――AIの登場で将棋界は変わりましたか。

 つい最近までコンピューター将棋と人間の世界はルールが同じでも交わることがなく、お互いに影響も与えていませんでした。ただ今は、非常に強くなってきたし、プロもアマチュアも最新バージョンのソフトを無料で手に入れることができるため、将棋の中身や内容が再構築されているという感じなんですね。将棋は400年の歴史があります。そこで積み上げられてきた体系的なセオリー(定跡)が一つずつ見直されたり、修正されたり、そのような段階に入ってきました。

何やっているのか、全然分からない

 ――AIがあまりに強くなりすぎると、人間にとってそれほど意味がなくなるということは。

 そういう可能性も十分にあると思います。もう何をやっているのか全然分からない。ソフトは1年で古いバージョンに8割勝つと言われていて、それは驚異的なスピードです。人間が1年前の自分に8割勝つのは相当大変なことです。一方でこうも思うんです。それだけ進歩する余地があるのは、将棋の奥深さを証明してくれているという側面もある、と。

 ――3月に放送されたNHK杯テレビ将棋トーナメントでは7年ぶりに優勝しました。

 AIでいろいろ調べることはできますが、結局は未知な場面でいい手が指せるかどうかが問われている点では、今も昔も違いはありません。どんなに便利になってもどんなにソフトが強くなっても、そこは同じかなと思っています。

 ――人間が指す将棋の面白さがあるということですか。

 そうですね。二つの要素があって、時系列で物事を考えるかどうかと、もう一つは恐怖心があるかどうかです。恐怖心があるがゆえにこの手が指せるとか、この手を選ぶっていうことがよくあるんですね。そこに見ている人たちが共感できるかどうか、魅力を感じられるかということがあると思います。

 ――AIには結果がなぜそうなったのかが分からない「ブラックボックス」などの課題もあります。

 AIの方がミスする回数は少ないと思うんですが、ミスしたときの度合いはAIの方が大きいと思うんですよ。人間はミスするんだけど、極端にとんちんかんなミスはしないと思っています。AIはプロセスで何をやっているのかが基本的には分かりません。ディープラーニング(深層学習)もそうですが、プロセスが大きすぎて解明は難しいです。

 逆に言うと人間が持っている…

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