パイロットが見た戦火の残響 南洋航路、41時間36分

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朝日新聞航空部・上野博
【動画】朽ちた艦船・零戦…南洋に今も 「餓島」と呼ばれた島
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 さびついた姿を海面にさらす駆逐艦、白骨のように朽ち果てた零戦、ジャングルに放置された戦車……。戦後71年の夏、日本から5千キロ以上離れた南洋の島々に残る戦争の傷痕を、朝日新聞社機「あすか」で取材した。サイパン、パラオ、ミクロネシア連邦、ソロモン諸島の4カ国・地域、計74カ所。総飛行時間41時間36分に及んだ取材は、実はトラブルの連続だった。

自社機で海外フライトの実績

 「戦跡の映像は、戦争を考える最高の教材となりうる」。2015年、深海に沈む戦艦「武蔵」の姿が公開されたとき、大きな議論となった。今年2016年は航空部創部90年の節目。2月、南洋の戦跡を本社機で巡る企画案を作成した。自社機で海外取材フライトができる報道機関は朝日新聞社だけ。これまでアラスカ、ヒマラヤ、マーシャル諸島、モンゴルなど世界各地へとフライトの実績を積み重ね、キャリアとノウハウを蓄積してきた伝統のたまものだ。

 近現代史を担当する大阪社会部の永井靖二編集委員と話し合い、サイパン、パラオ、ミクロネシアを取材候補に入れた。今回、最大のターゲットはソロモン諸島に残る駆逐艦「菊月」。1942年、戦史上初の日米空母決戦「珊瑚(さんご)海海戦」で、米戦闘機の攻撃を受けて沈没。その後、米軍に引き上げられ、海岸に放置された。世界で唯一、海面上に姿を残す日本軍の軍艦だといわれる。70年以上、強い日差しや風雨にさらされてきた。年々朽ちていくうえ、温暖化による海面上昇の影響もあり、空撮のチャンスは今しかない。

 関係部との打ち合わせを繰り返し、8月末の出発が正式に決まった。各大使館、領事館へビザや取材、飛行計画を申請し、国際フライトのサポート会社に調整を依頼した。飛行許可、取材許可の取得に難航。「行ってから調整」になる部分が多く、「行けばなんとかなる」と信じるしかなかった。

空自パイロットだった私

 筆者は朝日新聞社に入社する前、航空自衛隊の操縦士だった。戦闘機に乗り、訓練に明け暮れた。操縦士は幹部候補生学校にも入校し、戦史、指揮命令などを研究する。太平洋戦争について多くのことを学んだ。ソロモン海戦やガダルカナル島の戦いでは無謀な作戦が繰り返された。指揮官の間違った決断が悲惨な結果を招いたことを知った。

 以前、茨城県にある予科練平和記念館を訪問したことがある。そこには、20歳前後の若者たちの写真が並んでいた。当時のパイロットや搭乗員で、その下に書かれた「ソロモン沖」「ガダルカナル」「テニアン」「パラオ」などの地名は戦死した場所だった。時代が違えば、自分の写真もそこに並んだかもしれない。

 正しい決断には正しい情報が…

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