(関西食百景)都会の海 輝く太鼓腹

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文・玉置太郎 写真・遠藤真梨
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大阪湾のマイワシ

 おびただしい銀色の魚の背が、海面にきらめく。南大阪の街並みに臨む大阪湾上で、隣り合う2隻の網船(あみぶね)。計12人の船員が甲板から見つめるなか、海中に丸く広げられた全長1千メートルの巻き網は引き絞られ、今、海面へとせり上がってきた。「マイワシや」。待ちわびた獲物に、船員たちがどなった。

 「マイワシは最後、必死で暴れよる」。頭を網に突き刺すように、激しく体をくねらせる。身を傷つけないようにポンプで吸い上げ、氷を張った運搬船の船倉へ、滝のように流し込む。

 腹がぷっくりふくれ、側面には「七つ星」と呼ばれる鮮やかな黒い斑点。大きい物は体長20センチ近い。とりわけ、イワシは鮮度が命。運搬船は即座に、大阪府岸和田市の阪南港へ取って返した。

 同港が拠点の府鰮巾着(いわしきんちゃく)網漁協は、府内の漁獲量の6割を占める。「巾着」と呼ぶ巻き網漁の5船団を有し、一番の狙いはマイワシの群れ。一網で1千万円の売り上げになることもある。

 「大阪湾のイワシは、他とは脂の乗りがちゃう」。漁協の岡修(おさむ)組合長(66)は言う。湾には淀川、大和川などの大河川から豊富な栄養が流れ込む。大物は「トロイワシ」と呼ばれ、東京・築地市場でも1キロ2千円の高値がつく。とれたてを食べてみて、イワシの概念が変わった。

焼き・揚げ・煮・握り 舌でとろける脂

 マイワシを積んだ運搬船が阪南港(大阪府岸和田市)に姿を見せると、荷さばき場に続々と人が集まり始める。にわかに港が騒がしくなった。

 船倉からベルトコンベヤーへ…

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