熊本地震後「予言」の検索が増加 デマは早期に収束

篠健一郎
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 熊本地震発生後のヤフーの検索データには、「デマ」や「予言」に関連する語句も多く見られた。4月14日の発生から8日間の検索データを分析すると、「デマ」に関連する語句は発生からまもなく収束に向かったのに対し、「予言」は4日目まで増え続け、その後も根強く検索され続けた。その心理とは――。

 認知心理学が専門の信州大学人文学部の菊池聡教授に分析してもらった。対象は被災地で検索された語句だ。

地震前、犬が床なめる?

 まず、14日の「前震」直後3時間の検索データに注目すると、以下のような語句があった。熊本地震だけでなく、東日本大震災阪神大震災と関連させた検索も。

【熊本大地震 予言】

【地震 予言 4.15】

【東日本大震災 予兆】

【関西淡路大震災 前兆】

 さらに、動物の行動と地震を結びつける検索もあった。

【犬は地震予知する】

【地震前 犬 床舐める】

 大地震の前に井戸水がかれたり、ナマズが暴れたり、カラスが騒いだり――。そんな自然界のさまざまな異変は「宏観(こうかん)異常現象」と呼ばれる。

 上記の検索もそんな現象を確認しようとするものとみられるが、どこまで信頼性があるのだろうか。

 菊池教授は「動物の異常行動は日常的に起こっているが、注意を向けない限り、記憶には残らない。地震が起きたときに、後から関連づけて解釈されることが多い」と否定的だ。

 菊池教授は以前、大学の講義で学生332人にこう尋ねたことがあるという。「今日、大震災で多数の死者が出たと仮定する。その前兆と思える出来事を、あなたは見聞きしていませんか?」。すると、「カラスとトンビが興奮して空中でケンカをしていた」「隣家の犬が激しくほえた」など、約64%が「異常」を報告したという。

デマ、確かめる検索

 「前震」直後3時間のデータには、ネット上に飛び交った情報の真偽を確かめようとする検索もあった。

【ライオン脱走】

【熊本動物園トラ逃げ出し】

【熊本イオン 火事】

【地震 ツイッター ガセ】

【ライオン ついったー がせ】

 「ライオン」の出元は、14日夜のツイッター投稿だ。街中を歩くライオンの画像と一緒に「地震のせいでうちの近くの動物園からライオン放たれた」などと投稿があった。

 さらに同日夜、熊本市の南東に隣接する熊本県嘉島町の「イオンモール熊本」で「火災が発生している」という情報が写真とともにネット上に流れ始めた。

 この「ライオン」と「イオンモール 火災」に注目し、21日までの8日間に範囲を広げて、検索データを抽出した。

「デマ」は数日で収束へ

 すると、ピークを「100」としたときの検索量で、「熊本 ライオン」という検索数は、投稿日の14日が「78」、翌15日が「100」。その後の6日間は1桁台で推移した。

 「イオンモール熊本 火災」は、14日に一気に「100」。同日午後11時ごろ、フジテレビが特別番組で「イオンモール熊本で火災発生情報」という内容のテロップを表示したことも影響したとみられる。15日も「62」だったが、17日以降は「0」近辺で推移した。

 これらの検索が発生からまもなく収束したことについて、菊池教授は「『ライオンが逃げた』や『火事』は、ある程度、客観的に(真偽が)確認できるためだ」と話す。

根強く残る「予言」

 同じ8日間で、「熊本 地震 予言」の検索データを抽出してみた。すると、「デマ」とは違う傾向が出た。

 14日は「6」だったが、15日は「58」、16日は「50」となり、「本震」翌日の17日にピークの「100」になった。その後も18日は「82」、19~21日も「30」台で検索され続けていた。

 こうした傾向が出た理由について、菊池教授は「予言はあいまいなものが多く、『起こる』まで有効という性格を持っている」と指摘する。

怖がる自分を正当化

 それにしても、地震が起きると、なぜ「デマ」や「予言」が出回るのか。

 菊池教授は「地震を怖がっている自分を正当化するためだ」とみる。大地震後、「またいつ大きな地震があるかわからない」という恐怖に襲われる。その不快な状態を解消するのがデマや流言だ、という見方だ。

 「怖がっている理由を、デマや流言という形で作り出し、その不安や恐怖を正当化しようとする。怖くて当然なんだと」。それを共有しようとしてしまう――。「予言やデマの内容が本当だったら大変なことになる。だからみんなに知らせないといけない、と考えるんです。おもしろがって伝えることもあるが、基本的には善意に基づいている」

物ごと、批判的に見て

 災害時に出回る真偽がはっきりしない情報に、どのように向き合えばいいのか。

 菊池教授は、ネット上には「デマ」もある一方で、メディアが報じきれない有用な情報を即時に手に入れることができるという大きな利点もあると指摘し、「まずはそれらを受け止めたうえで、批判的に分析することが必要だ」とアドバイスする。篠健一郎

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 きくち・さとる 1963年生まれ。信州大学人文学部教授。信州大学地域防災減災センター長。専門は認知心理学。著書に「予言の心理学」「超常現象をなぜ信じるのか」などがある。

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