夏目漱石「夢十夜」 第六夜

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 運慶(うんけい)が護国寺(ごこくじ)の山門で仁王(におう)を刻んでいるという評判だから、散歩ながら行って見ると、自分より先にもう大勢(おおぜい)集まって、しきりに下馬評(げばひょう)をやっていた。

 山門の前五、六間(けん)の所には、大きな赤松があって、その幹が斜めに山門の甍(いらか)を隠して、遠い青空まで伸びている。松の緑と朱塗(しゅぬり)の門が互いに照(うつ)り合って美事(みごと)に見える。その上松の位地(いち)が好(い)い。門の左の端を眼障(めざわり)にならないように、斜(はす)に切って行って、上になるほど幅を広く屋根まで突出(つきだ)しているのが何(なん)となく古風である。鎌倉時代とも思われる。

 ところが見ているものは、み…

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