夏目漱石「門」(第百四回)二十三

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 月が変ってから寒さが大分(だいぶ)緩んだ。官吏の増俸問題につれて必然起るべく、多数の噂(うわさ)に上(のぼ)った局員課員の淘汰(とうた)も、月末までにほぼ片付いた。その間ぽつりぽつりと首を斬(き)られる知人や未知人の名前を絶えず耳にした宗助は、時々家(うち)へ帰って御米に、

 「今度(こんだ)は己(おれ)の番かも知れない」という事があった。御米はそれを冗談とも聞き、また本気とも聞いた。稀には隠れた未来を故意に呼び出す不吉な言葉とも解釈した。それを口にする宗助の胸の中にも、御米と同じような雲が去来した。

 月が改(あらたま)って、役…

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