思潮の流行に左右されず平和研究 坂本義和さん死去

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編集委員・三浦俊章

 日本の国際政治学の開拓者で、現実を見据えた平和主義の可能性を追求した東京大名誉教授の坂本義和(さかもと・よしかず)さんが2日、東京都内の病院で死去した。87歳だった。葬儀は近親者で営まれた。

評伝

 「理想主義の旗手」と呼ばれることを、坂本氏自身は好まなかった。国際政治が力の世界であるという現実を知りぬいているからこそ平和研究の道を歩んできたのだ、という思いが強かったのだろう。

 大学卒業後にまず取り組んだのが、フランス革命の批判者で、保守主義の祖と言われる英国の思想家エドマンド・バークだった。

 「敗戦後の虚脱の中で日本はどこに行くのかと考えた。当時は変革の思想があふれていたが、みんなが一方向に流れるだけでは反動が来る。保守の最も優れた思想を知ることで、自分の位置を確かめようと思った」とのちに語った。

 60年安保の年に、「革新ナショナリズム試論」を発表した。革新陣営がナショナリズムという言葉を忌み嫌っていた時代に、日本の伝統という特殊価値ではなく、平和という普遍的価値を踏まえた新たな「ナショナル・アイデンティティー」の構築を訴えた。

 坂本氏の仕事は、思潮の流行に左右されず、深い意味で歴史が問う課題にこたえようとしたものだった。3年前の取材の際、知識人には批判力と構想力の二つの軸が欠かせないと繰り返し語った。師は政治学者の丸山真男。師と同様、晩年まで知識人の責任を果たし続けた。(編集委員・三浦俊章)

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