夏目漱石「三四郎」(第十八回)三の四

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 それから当分の間(あいだ)三四郎は毎日学校へ通(かよ)って、律義に講義を聞いた。必修課目以外のものへも時々出席して見た。それでも、まだ物足りない。そこで遂には専攻課目にまるで縁故のないものまでへも折々は顔を出した。しかし大抵は二度か三度でやめてしまった。一カ月と続いたのは少しもなかった。それでも平均一週に約四十時間ほどになる。如何(いか)な勤勉な三四郎にも四十時間はちと多過ぎる。三四郎は断えず一種の圧迫を感じていた。しかるに物足りない。三四郎は楽(たのし)まなくなった。

 或日(あるひ)佐々木与次郎に逢てその話をすると、与次郎は四十時間と聞いて、眼を丸くして、「馬鹿々々」といったが、「下宿屋のまずい飯を一日に十返食ったら物足りるようになるか考えて見ろ」といきなり警句でもって三四郎を打(どや)しつけた。三四郎はすぐさま恐れ入って、「どうしたら善かろう」と相談をかけた。

 「電車に乗るがいい」と与次…

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